法月綸太郎『犯罪ホロスコープ1 六人の女王の問題』光文社カッパノベルス

ネタバレ注意。
黄道十二星座ギリシャ神話をモチーフにしたシリーズ短編集。
端的に素晴らしかったです。本当にこの作家は、「本格ミステリ」の愉しみを最もスタンダードな形で堪能させてくれるなあと感じ入った次第。
以下それぞれに感想を。
「[牡羊座]ギリシャ羊の謎」:ホームレスの死体から持ち去られたフライトジャケットをめぐるホワイダニット。このテの作品はどうしてもエレガントさに欠けてしまい、持ち味ではないのではないかと思うが、状況設定の面白さで読ませる。こういう「暗合」、メッセージって題材はクィーンっぽくもあるが、同じ「和製クィーン」でもどっちかというと有栖川っぽい作品。
「[牡牛座]六人の女王の問題」:現代俳句を題材にした、こっちは「暗号」もの。よく考えられてはいるが、これに関しても俺の思う法月のフィールドではない。しかしここでもまた、細かいネタが巧い。作中作のサブカル系コラムとか、現代演劇の劇団とか、リアル。過不足ない文章からしてそうなのだが、小説がクレバーな技巧にセンスよく彩られている。
「[双子座]ゼウスの息子たち」:双子どうしの夫婦、という中心的な登場人物の設定にまつわるサプライズに、犯人特定のロジックを絡めたフーダニット。「絡め」はやや強引だが、サプライズとロジックを兼備した、短編としては稀有な好編。特にサプライズはまったく盲点だった。
「[蟹座]ヒュドラ第十の首」:この本の個人的ベスト。というのは俺が蟹座だから贔屓してるわけじゃなく*1。「犯行現場でなぜか複数組使用されていた軍手」をめぐるロジックパズルだが、ある伏線から導かれる「二重の意味」、そしてそこから導かれる犯人特定の手つきにはゾクゾクした。萌え倒した。マジに巧いよ。これはいいものだ!
「[獅子座]鏡の中のライオン」:女優殺人事件。操りプロットを近親愛憎劇で描く最もドラマティックな一編。楽しく読んだが、やや「小説」を書きすぎた気もする。
「[乙女座]冥府に囚われた娘」:都市伝説モノキター!!つってテンションは上がった。「都市伝説パズル」は本格ミステリの短編における最高の収穫だと思ってるしね。…まあこっちは事件の味付けにオリジナル作ったってだけの感じだったけど。スマートにまとまりは良い。
…かようにバラエティとクオリティにおいて稀に見る良質な本格短編集です。さすが法月。本格好きならこれを読まずに何を読むんだって感じです。ぜひ。
評価はA。

犯罪ホロスコープ1 六人の女王の問題 (カッパ・ノベルス)

犯罪ホロスコープ1 六人の女王の問題 (カッパ・ノベルス)

*1:まあ『星闘士星矢』では冷遇されてるからな。ここでぐらいいい目みてもいいだろう。