青井夏海『赤ちゃんをさがせ』創元推理文庫

ネタバレ一応注意。
期せずして赤ちゃんネタの連打。自宅出産専門の出張助産師コンビと、二人にアドヴァイスを送る「伝説のカリスマ助産師」を探偵役に据えた、助産師探偵シリーズの連作短編集。
ただでさえ特殊な状況設定に、パット・マガーめいてプロットの凝った謎を加えて、高い知的遊戯性が構築されています。そして物語においてじんわりと染みてくるヒューマニティは、そうした知的遊戯性との対比でより新鮮で鮮烈なものになっていると思います。特に「お母さんをさがせ」のラストはうかつにも落涙しかけました。端的に言って、質の高い「本格ミステリ」が愉しめます。
創元の「日常の謎」にまま見られる、粗製濫造がゆえの「あざとさ」や「鈍さ」からは離れ、描写や台詞の端々にも理知が行き届いていて、安心して読み進められるのが嬉しいところ。ちょっとロジックに飛躍を感じる部分がないではないですが、それもまた世界観の一部かな。
巧い作家さんとして数える一人になりました。
評価はB。