谷崎潤一郎『刺青・秘密』新潮文庫

ネタバレ一応注意。
大学の授業で読まされた『卍』と同じタイミングで買って、今まで読んでなかった。『卍』はストーリーの如何ともし難い益体もなさと、関西弁の鬱陶しさでまったく楽しめなかった作品だったが、この初期短編集は面白かったっす。上方要素が入ってくるのは関東大震災後に関西に移住してからのことらしく、文学史的にその評価の如何は知らんが、個人的にはまったく要らんのではないかと思います。
短編は初っ端から、イメージのさらに斜め上をいく変態性全開。脚フェチ、サドマゾ、聖水プレイ。それがまた華麗な文章で緻密に描かれるもんだから始末に悪い。
たとえば脚フェチなんてこう。

(前略)その女の足は、彼に取っては貴き肉の宝玉であった。拇指から起って小指に終る繊細な五本の指の整い方、絵の島の海辺で獲れるうすべに色の貝にも劣らぬ爪の色合い、珠のような踵のまる味、清冽な岩間の水が絶えず足下を洗うかと疑われる皮膚の潤沢。この足こそは、やがて男の生血に肥え肥り、男のむくろを踏みつける足であった。
(「刺青」10p)

…ハンパねえw
この文章、喜国雅彦もエッセィで引用してた気がするけど、改めて凄い文章だと思いました。
でも変態だけじゃなくて、「秘密」の不条理感とか、「異端者の悲しみ」に漂う滑稽と悲哀、それが結実するラストの余韻*1、「二人の稚児」「母を恋うる記」といった寓話の美しさと、後半の「文学」にも読みどころの多いさすがの文豪でございました。
評価はB。

刺青・秘密 (新潮文庫)

刺青・秘密 (新潮文庫)

*1:しかし自伝だと思うとホントダメ人間、この人。