『オッペンハイマー』

@八丁座

マンハッタン計画のリーダー、「原爆の父」ロバート・オッペンハイマーの伝記映画。

三時間の長丁場、様々な位相において惹きつけられ続ける力作でした。序盤は壮麗な映像と音楽で天才物理学者の脳内ヴィジョンに触れられるし、ロスアラモス以降は歴史のダイナミズムとその過程での人間ドラマが濃厚に描出され、終盤の法廷展開では重層的な主題に圧倒されます。さすがのノーラン、これを成立させるに必要なマンパワークリエイティヴィティの総量を思うと目眩がします。

ネットに散見された広島・長崎の取り扱いの仕方に不満を訴える意見も、それは尊重されるべき視座であり、確かにそこへの悔悟や鎮魂が直接的に表現されているとは思いませんが、終盤の特にロッブによる追及のシーンやトルーマンの台詞の一撃に喚起された曰く言い難い感情は、愚かでも誤ってもいてさらには不可逆的な、人間存在自体の不条理としか言えない、大きな何ものかへの格闘の意思によるもので、その中には確かに犠牲者への想いも含まれているのではないかと思いました…なんとも言語化に難しいところですが。

授賞式でやらかしたから言うわけではないけど、俺はロバート・ダウニー・Jrよりラミ・マレックの方がヤバい仕事してたと思ったよ。短い出演時間であの清新な存在感、凄いわ。そしてトルーマンがアレだったとは、今回もやっぱり分かりませんでした…なんなんだアイツマジで。