横山秀夫『臨場』光文社文庫

ネタバレ注意。

死体や発見現場の痕跡から事件の謎を読み解く、「終身検視官」倉石の活躍を描く警察ミステリ連作。

いやークオリティ高いっす。やっぱ偉大な作家だと思うわこの人。多彩なアイデアとプロットを、叙述のスタイルも変えながら、骨太な人間ドラマを絡ませて、いずれも高品質な警察本格として創出された連作です。

劈頭「赤い名刺」のスタイリッシュな伏線術にいきなりシビレたし、「眼前の密室」はサツ回り記者のお仕事小説としても興味深い。「鉢植えの女」もすごくマニアックなことやってて面白いし、「餞」はヒューマン・ドラマとして普通に泣いた。「声」での女性描写も新機軸で印象が深く、「真夜中の調書」もスマートにまとまった好編。

その中でベストは、やはり「黒星」かな。ここまでの連作の中で徐々に象嵌されていた倉石という男のヒロイズム/ダンディズムが全開になり、《「部下だからだ」》(298p)のたったひと言で涙腺決壊。くそかっけー。でもだからこそ、「十七年蝉」でのアレが蛇足に感じられもしたのだが…。

何はともあれ、質実剛健、かつ独創性に富んだ、警察ミステリの第一人者としてのジツリキを堪能できる作品集です。

評価はB+。

臨場 (光文社文庫)

臨場 (光文社文庫)