米澤穂信『王とサーカス』創元推理文庫

ネタバレ注意。
ネパールに滞在していた大刀洗万智が、王宮での殺人事件に揺れるカトマンズで、取材を進めるうちにもう一つの殺人事件に遭遇する長編。
力作。ジャーナリズムの主題はここではまだ結実を見ておらず、シリーズ通じて追及していくテーマだと思うが、オープンスペースに出現した死体と、クローズドな状況下での犯人追究のロジックの絡ませ方は見事な本格の手腕だし、「子供が筋書きを書いていた」という、かの名作のそれを反転させたプロットは、ミステリ史を思って味わい深い。その味わいには、主題がまたビターな薫香を加えてもいるわけで、なんてことはない、周到にして精緻な、高品質のミステリということです。
評価はB−。