多島斗志之『追憶列車』角川文庫

ネタバレ注意。
ノンシリーズ短編集。
現代舞台の哀切なサスペンス(「マリア観音」)、コミカルなショートショート(「預け物」)、日露戦争下四国の捕虜収容所を描く歴史小説(「虜囚の寺」)、清水次郎長の妻をヒロインとする時代悲劇(「お蝶ごろし」)と多彩で、それぞれ読み応えのある作品集。
しかし一番印象的だったのは何と言っても表題作。第二次大戦下、滞欧邦人の疎開列車というニッチな舞台立て、そこで描かれるボーイ・ミーツ・ガールは浪漫的・夢幻的な雰囲気がありつつ、結末では単なるセンチメントだけではない複雑な余韻の響く、繊細で美しい佳品でした。
評価はB。

追憶列車 (角川文庫)

追憶列車 (角川文庫)