RADWIMPS 『人間開花』

8thフル。
聴いていて今さらながらに思うのは、ああ野田くんも大人になったんだなあと。下世話な話、数々の女性(女優)と流した浮名*1をいちいち想起するまでもなく、かつてその表現の核を成していた、恋愛とその対象に対する、狂気どころか世界の深奥に触れる一歩手前の、妄信的なピュアネスは喪われてしまったんだなあと。
original ver.「前前前世」の、大サビ前の会話のフレーズには正直何も喚起されないし、「スパークル」はいい曲だけど《権利なんかじゃない》ときて《義務だと思うんだ》のとこはつまらないなあと思ってしまう。映画伴曲で純粋に独立した楽曲ではないこともあるだろうけど、かつてのキレてた野田くんだったら、どんな涙腺炸裂必死のフレーズでロックのカタルシスとして昇華してくれたんだろうと思ってしまうのです。
しかし…そうこう言いながら、個人的にはとても好きなアルバムです。そこはやはり天才ですから、若かりし頃の表現とはひと味違った、円熟と鋭利さを感じさせる作品で、前作よりはるかに愛聴しています。
まずは、と言いつつ語るには、ラストに置かれた「告白」。

笑顔ひとつを作るのさえも 汗かきあたり見渡す僕だけれど
見渡した人のその群れの中に ふとひとつだけ場違いなほど美しい
色の魂 それがつまりあなたでした
(「告白」) 

恐ろしく普遍的で、あたたく美しいラヴ・バラード。結婚式のエンドロールででも流されたら参列者の俺は号泣します。個人的にラストの《たった今》が《ただいま》に聞こえるダブルミーニングでツボ。ラヴソング・ライタ野田洋次郎が新しいフェーズに入ったことを感じさせる曲が、アルバムの〆に幸福な彩を添えてくれますが、逆に職人的にこのぐらいならいくらでも作れるって話なら恐ろしい。
変態ミクスチャー系は好みじゃないから置いといて、「Lights go out」はセンス抜群でやはりラッドのアルバム一曲目名曲列伝に加わる曲だし、「光」「ヒトボシ」といったアッパー系もロックキッズをアゲるに十分な高機能。「'I' Novel」と「棒人間」*2、あとは「O&O」も曲のニュアンス全く違うけど、こういうざっくりしたリズムのミディアムチューン作らせたら、野田くんの右に出るソングライタはいないと評価しています。
そして「トアルハルノヒ」における、《ロックバンドなんてもんをやっていてよかった》の1フレーズ、その後の曲のバランス崩して初期衝動具現化したようなギター、これまでの作品にあまり見られなかった*3、様々な苦難を経て三十過ぎたロックバンドとしての自意識の表出は、なんだかんだ10年聴いてきたリスナとしてはやはり胸を熱くさせられるものです。
そしてその流れの中に、この作品の中で僕が最も語りたい曲、「週刊少年ジャンプ」があって。

週刊少年ジャンプ的な未来を 夢みていたよ
君のピンチも 僕のチャンスと 待ち構えていたよ
きっとどんでん返し的な未来が僕を待ってる
血まみれの方がさ 勝つ時にはかっこいいだろう

タイトルだけ見てたら、せいぜいワンピだのの小ネタ仕込んだコミックソングだと思ってて。したらまさかの、初聴にして、号泣。
かつて無邪気にジャンプ読んで育って、しかし当然憧れのヒーローのようにはなれずに、それぞれがそれぞれに傷つきながら日々を生きる、すべての少年たち*4のアンセム。上記引用箇所はこう続きます、《だから今はボロボロの心にくるまって 夢を見る》。
他のアーティストの名前出すのはアレだけど、この曲は完全にamazarashi。10代から一線級のバンドやってた天才に言われたないわ!という屈託や、《君だけのヒーロー》のとこが五輪のクソみたいなテーマ曲思い出させてアレ、というのもその屈託の一部としてあるのですが、今までラッドには震わされたことのなかった…amazarashiには震わせられまくっている…感情の腺がふいにぶん殴られて、嬉しい感動でした。

縮んだ心に なんとか釣り合うように
丸めてた猫背ももうやめてよ
下を向いても あの頃の僕はいないよ
「ほら僕は ねぇ僕はここだよ」
(以上「週刊少年ジャンプ」)

ソングライティングの質とバラエティ、それを昇華するバンドの表現力、いずれも一流のロック・アルバム。『君の名は。』で知った少年少女が、こうして本物のロックに触れるのは素晴らしいことだと思うし、「告白」に憧れを募らせてほしいとも思うけど、「週刊少年ジャンプ」の真髄が分かるのは、同年代を生きる俺たちの特権だと信じたい、三十路ロックリスナの矜持としてのレヴューでした。
お付き合いありがとうございました。

人間開花(通常盤)

人間開花(通常盤)

*1:臼田あさ美吉高由里子ときて、否定を待つまでもなく前田敦子なんかじゃ踊れないよね。

*2:本文に書くとこないからここで言うけど、このアルバムの曲で三番目ぐらいに好き。

*3:そう言えば「独白」って曲が唐突にあったりはしたな。

*4:嫁はまったく気に入っていませんでした。やっぱオトコノコに限定されたロマンやね!