amazarashi 『夕日信仰ヒガシズム』

3rd。
なぜか『ラブソング』はカウントされないらしくてオフィシャルでは2ndフルなのですけど、俺は三枚目と数える。
待望の価値はあり、ロックアンセムからバラード、そしてもちろんポエトリィまで取り揃え、すべてにエモーション炸裂させた充実の好盤です。ポエトリィ除く各曲を取り上げます。

1.「ヒガシズム」

星空と人々の距離の虚しさを
埋めるように差し込む夕日の赤が綺麗だ

タイトルチューンはamazarashi音源の劈頭を飾ってお馴染みの戦闘的なロックチューン。強い言葉とハードな音像、「ラブソング」や「デスゲーム」の系譜。コーラス部でのスケール感と迫力ではその系譜でも随一と思います。

2.「スターライト」

泣くな 泣くな 旅人よ 故郷の姫りんごついばんだ
鳥になるか 鳥になるか そんな夢をみたよ 涙も枯れたよ

アンセムその1。
銀河鉄道の夜」に材を採った詞世界と、熱させつなさを兼備したメロディ、そしてスペーシィなサウンドスケープが混然一体となって織りなす星空の風景。ここで一回目の感涙。
特にサビ前、《屑みたいな ゴミみたいな 小さな星を見つけたんだ》のところのメロディのハマリがなんでか鬼のようにツボです。

3.「もう一度」

敗北 挫折 絶望がラスボスじゃねえ

アンセムその2。
「日本のギターロックのフォロワーであることの再表明」と語られた、正統的なギターロックの疾走感に煽られて。お馴染みのバイトネタから始まって、それ以降はもう涙腺殴打のエモいフレーズの雨曝し。歌われるのはアーティストとしての主題にある「挫折からの再起」、上のフレーズはこう続きます。

自分自身にずっと負けてきた 勝てない訳ないよ自分なら
僕が一番分かってる 僕の弱さなら

ここで二回目の感涙。
…この歌に胸を熱くできるうちは、俺もまだ大丈夫だなって思えるアンチニヒリズムの極地。
この曲を座って観てるってんだから、なかなかに独特で異様なライヴだよ(否定ではなく)。

5.「穴を掘っている」

僕は僕を諦めたぜ 生まれてすぐさま諦めたぜ

自分の墓穴を掘る「悪人」を主人公にしたダークなバラード。IWGPのサルの回思い出すわー。
フィクションに託したニヒリズムの歌だとは思うんだけど、最後のフレーズに至って、それがニヒリズムの発露なのか、逆に「諦めんなよ」ってアンチニヒリズムなのか分からなくなる。そうした多様な読みが可能なところが、たとえば「性善説」にも共通する、amazarashiフィクション系楽曲の魅力かと。

6.「雨男」

暗闇と生涯暮らすには 僕はもう沢山知りすぎた

三回目の感涙はもはや滂沱へ。
個人的にはこのアルバムのベスト曲だし、amazarashiのベスト曲を「クリスマス」と張る。アレンジ含めた完成度ではこちらに軍配が上がるけど、もはや完成度云々の問題ではない。雨音に擬して優しい残響を残す鍵盤と、低いストリングスが安寧を響かせる流麗なサウンドプロダクトと共に始まり、やがて壮大なバンドアンサンブルへと雪崩れ込んでいく中歌われ続けるのは、タイトルの通り、amazarashiというミュージシャンの存在証明そのものだ。
日常にある様々な鬱屈や後悔や哀しみを引きずって生きていくという主題において、この曲ほどそれを完璧に表現し得た例を知らない。そこにある人の優しさや友情といった正しいものへの賛歌は、《笑ってくれよ》という含羞と共にあるからこそこんなにも感動的だ。頭に引いたこのワンフレーズだけで、それはもう表現され尽くしているとさえ感じられる。
きっとこの曲を聴いた多くの人が、その雨曝しの日々に携えていくことになるだろう、切実性と説得力と、あたたかな優しさに満ちたメッセージ・ソング。

「やまない雨はない」「明けない夜はない」
とか言って明日に希望を託すのはやめた
土砂降りの雨の中 ずぶ濡れで走っていけるか?
今日も土砂降り

8.「ヨクト」

夢は必ず叶うから って夢を叶えた人達が
臆面もなく歌うから 僕らの居場所はなくなった

…って、「雨男」で散々泣かせた後でこのルサンチマンってのも俺は好きだよw
身体快感の高い疾走系ギターロック。《人としての最小単位だ》ってのはキラーフレーズだね。

9.「街の灯を結ぶ」
押韻多用でポエトリィに接近した楽曲。
《ぶれっぶれのやわな自我》がキラーフレーズとして取り沙汰されていますが、重い身体を引きずってひとつひとつ街灯を辿る夜道を、《星座の線みたいに》と描くあたりは裏「スターライト」みたいでなかなかにリリカル。

11.「ひろ」

ガキみたいって言われた 無謀だって言われた それなら僕も捨てたもんじゃないよな
誰も歩かない道を選んだ僕らだから 人の言うことに耳を貸す暇はないよな

19歳で亡くなった友人に向けた私信のバラード。当然のように感涙の四。
ピアノとストリングスで、言ってしまえば非常にベタな泣きのアレンジが施されていますが、それに負けないヴォーカルの力が堪能できます。デモ音源なのか、アルバム聴く前に弾き語りver.を耳にしてて、詞曲そのものはその時に充分感動的に聴いていたのですが、こうしてアレンジが施されるとなおヴォーカルの強さが衝撃的でした。そりゃこの曲は力入るよな。
それにこの曲も、死者ではなく過去の自分への語りかけで現在の自分を奮い立たせようとしている歌として聴くこともできるんだよね。それがこのバラードが、私信でありながらもそのメッセージが普遍性を有している証明だと思います。

12.「それはまた別の話」
様々に感情を揺り動かされた最後に、おだやかさと仄かなあたたかさを添えるミディアム・バラード。
浅虫の黄昏」が、いつか見てみたい風景のひとつとなりました。
《春を待つ想望》を、ずっと《春を待つ祖母を》と、おばあちゃんとストーブ囲んでる冬の情景だと思ってました、とどうでもいい感慨を含羞として、時に大袈裟になってしまうamazarashiエントリの〆に。

夕日信仰ヒガシズム(初回生産限定盤)(DVD付)

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