6th(オフィシャルでは5th)フル。
捨て曲なしの傑作。信じられないもの、受け入れられないもの、押し付けられるもの、偽りをもって存在しているもの、同調圧力…そうしたものから全力で、誇り高く逃げる、信念としての拒絶の歌。もはやコンセプトアルバムのような一貫性が、現代のド真ん中を撃ち抜いている。
では、一曲ずつ。
1.「拒否オロジー」
応答せよ 応答せよ
檻を蹴破れ 服役囚よ
何度聴いてもかぶせて呟いてしまう、この青臭い喚起力。エモすぎる。
このアルバムの主題を、端的に、力強い言葉で表したポエトリィ。フルアルバムの劈頭をポエトリィ・リーディングで始めるという、それ自体がある種の拒絶であるw
2.「とどめを刺して」
「誰にだって辛いことはある」 そういうのは自分にだけ言って
君の辛さを平凡にしたがる 人の無自覚が誰かの辛さになる
…ぐうの音も出ない正論。この意味を自身でさんざん啜ってきたからこそ、
僕と逃げよう 命尽きるまで この世に恩義も義理もないさ
なんて言葉がこの上なく力強く、信頼できるんだよなあと思う。自己責任論者は死ねよな。
3.「夕立旅立ち」
都会のせわしない暮らしにも
したたか風が吹く 田舎の風が吹く
あんたの顔も忘れちまった
そういう事にして 忘れた事にして
軽快なサウンドと韻律が一服の清涼剤だが、前に進むための別離の決意はシビアで、歌詞カードの詩の自意識も興趣が深い。
4.「帰ってこいよ」
幼い頃遊んだ校舎の壁が ひび割れた分僕等も傷ついた
その旅立ちの歌と美しい対照と表裏関係をなす、残ったものたちの歌。故郷を離れて、泣かずに聴くことができません。
真っ黒な夜 真っ黒な夜でこそ思い出せ
生まれた町を 今年も花が咲いたよ
地元帰るたびに遊んでくれて、帰れなかったらオンライン飲み会やってくれるツレがいるって、本当に幸せなことだと思いますよ。ありがとう。
5.「さよならごっこ」
そうした感情のピークから、息もつかせずなだれ込む、amazarashi史上屈指の歌モノ名曲。
当たり前にやってくる明日なら 「生きたい」なんて言わなかった
曲のストーリィはタイアップにかなり引っ張られているけど、その完成度が高すぎる。タイトル詩曲アレンジ歌唱、完璧だと思うわ。
6.「月曜日」
好きなこと好きって言うの こんなに難しかったっけ
高完成度タイアップシリーズにして、思春期ロックの普遍性を宿したアンセム。美しくせつなくやるせない。
分かったよ、阿部共実読むよ!
7.「アルカホール」
外と隔離した部屋で 飲み干す傷病手当
アルコールに耽溺する心象風景を歌って、この昏い美しさはどうだ。
中盤に繊細な彫琢をなす佳曲。アル中から現実が融解した父親を病院のベッドで見送った長男としてはいろいろ感興の深い曲やで…。
8.「マスクチルドレン」
昔描いてた 将来や夢は 最低賃金で売り払った
おなじみアルバイトシリーズだけど、見事に現実撃ち抜いたね…これがあるんだよ優れたロック・アーティストには。
鬱屈の風景を描きながら、しかしその「最低の幕開け」に差す光の眩しさが見事。上に引いたパンチラインの続きが体現している。
こっから進む一歩の価値も たかが知れてる
どうせ底値なら 心躍る方へ せめて望む方へ
9.「抒情死」
ナンボほど拒絶って言うねん、ていう主題タダ漏れw
現代社会の欺瞞を暴くに容赦のない舌鋒の最後、《生き抜いたなら顔を見せてよ》に連帯して、拒絶を続けていこうと思います。
ネトウヨは死ね。
10.「死んでるみたいに眠ってる」
《ホールデンとかディーン・モリアーティ》、《ラジカセで聴いたフォーエバーヤング》、そうした表現にすがるしかない夜があるよね。
amazarashiの歌もそうしたものだと思うよ。
11.「リビングデッド」
後悔も弱さも涙も 声高に叫べば歌になった
涙枯れぬ人らよ歌え
思えば一曲で、つーか《くそくらえ》の五文字でアルバムを体現してた気もするな…きっと一曲目じゃないかと思ってたけど、終盤、クライマックスの幕開けを告げて存在感たっぷりの名曲ぶりです。
12.「独白」
「言葉もない」という言葉が何を伝えてんのか 君自身の言葉で自身を定義するんだ
分かる!つって正に膝を叩いた。あと、「感謝しかない」とかも欺瞞感じるよね、なんて。
言葉の力が地に落ちた現代日本において、この訴えが投げるものの意味は大きい。いつぞやはギミックに感心しない、とか言ってごめん! アルバムに置いて主題を光らせる、力強いポエトリィだったわ。
再び私たちの手の中に
今再び 私たちの手の中に
言葉を取り戻せ
13.「未来になれなかったあの夜に」
見える人にだけ見える光だ 陰こそ唯一光の理解者
…なんかもう、タイトルだけで胸が熱くなる。挫折と鬱屈に打ちのめされて、しかしそこから立ち上がる、再生の歌は秋田ひろむの十八番。一本調子のメロディすら貫禄に変えてしまう、大上段に振りかぶった完全無欠の名曲ぶり。熱い。熱すぎる。何回聴いても見事に泣く。amazarashiのヒストリィを描いたMVも何回観ても泣く。さっきも観て泣いた。
特に青森の風景で泣く。
本当に数少ないけれど、確かに報いてやりたい夜というものがあって、それだけは捨てずに抱えていなければならないと思ってはいる。その思いがある間は、きっと変わらず泣き続けていられると思う。そう思わせてくれる。
醜い君が罵られたなら 醜いままで恨みを晴らして
足りない君が馬鹿にされたなら 足りないままで幸福になって
孤独な奴らが夜の淵で もがき苦しみ明日も諦めて
そんな夜達に「ざまあみろ」って 今こそ僕が歌ってやるんだ
14.「そういう人になりたいぜ」
「めんどくせぇな」って頭掻いて 人のために汗をかいている
そんで「何でもねぇよ」って笑う そういう人になりたいぜ
…と、散々に感情を揺さぶられた果てに、温かい肯定の灯をともすアコースティック・バラード。
引いたような、尊敬できる近しい人かいること、《君を守る為世界を終わらせてもいいぜ そこで僕は凍えて死んじまったっていいぜ》と思える人がいること、至上の幸せに気づかせてくれる。
…だけどそれは、戦わなきゃ守れないんだな。

- アーティスト:amazarashi
- 発売日: 2020/03/11
- メディア: CD