島田荘司『三浦和義事件』角川文庫

ネタバレ注意。
三浦和義事件」…「ロス疑惑」を繙くノンフィクション。
文庫版千頁に迫る大部は三章立てで、一章は「マスコミ・サイドの視界」として、ロス疑惑を追ったジャーナリストや被害者遺族の苦闘が、二章は「三浦和義の視界」として、容疑者の言い分とマスコミの報道とそれにより狂騒する「日本人」による報道被害が、それぞれまったく異なる事件の様相を描き出し、そして三章「裁判」と「後記、追憶のロス疑惑」において裁判の経過の客観的記述と、それを経ての筆者による見解が提示される。
質量共に読み応えたっぷり。一章では完全に演技性/自己愛性人格障害サイコパスと見える三浦が、二章では(いい意味でも悪い意味でも)エネルギッシュで軽薄な人たらしで、それ故にこれ以上考えられない不運の連鎖と報道被害に巻き込まれる「被害者」である落差*1。そしてそれを相対化できないまま雪崩れ込む「裁判」での代用監獄批判や、どう考えても無理筋である一審有罪判決の不合理を経て提示される結論の説得力。著者のライフワークの一つである「冤罪」に対する熱意と、それに衝き動かされる筆の迫力を味わうことができる。
出版はこの本の主人公にもたらされる最期の転回以前のものなので、それを島荘はどう捉えたのか、とても興味の深いところ。もしここに提示される結論が「真実」なのだとすれば、こんなに深い絶望の風景はないだろう。
評価はB。

三浦和義事件 (角川文庫)

三浦和義事件 (角川文庫)

*1:銃撃前後の夫婦の会話なんてなんとも愛らしいもので、胸が詰まるような思いがしてしまって。