舞城王太郎『イキルキス』講談社

ネタバレ注意。
短編集。初出年にも内容にもバラつきがあるので、各編ごとに雑感を。
「イキルキス」…中学生の死生観小説。舞城小説の個人的な読みどころである「倫理観」に関しては、こういう幼い視点になるとより際立つように思う。真っ当な主人公の思想と、それに相反する中坊っぷり…ヒロインとの「青い性」場面の微笑ましさときたら!…も効果的なコントラストを描いていたと思います。主題はなんか難解で論じられないのですが、ラストシーンはとてもとても好きでした。
本当に雑感…菱川京子というキャラがマジにマジでムカつく。そして女子キャラの名前の由来はすべて女子アナ…?
「鼻クソご飯」…この本だけでなく、彼のすべての作品中でも屈指のハード系短編。「群像」への初出は2002年、大学生協で立ち読みした記憶があるな。初期作品ということでファニィな部分がなくてだいぶトガってるけど、他二作品と比べて未消化な印象もまたある。しかし序盤、散々鼻クソの話しておいて、《もう鼻クソはどうでもいい。》(111p)には爆笑しましたよ。
「パッキャラ魔道」…なんか、タイトル勝ちだなw お得意の家族小説、それぞれが呆れるほど異なってすれ違った「倫理観」を持っていて、その相克というのはやはりこの作家にとって大きなテーマなのかしらと思います。この作品の主人公は「鼻クソご飯」のそれとはまた一味違ったコワレた奴で、なかなか珍しい読み心地です。結構悲惨で、馬鹿馬鹿しい出来事や状況の続く小説だけど、ところどころで胸を打つ台詞や思想が提示されるところ、さすがだと思います。
でも一番笑ったのは、《「俺が本当にやりたいのはサルサ」》(206p)のくだり。
評価はB。

イキルキス

イキルキス