坂東眞砂子『山妣』新潮文庫

ネタバレ注意。
明治末期、越後の山村を舞台に繰り広げられる伝奇時代小説。
『狗神』に引き続き、時代モノでもスマッシュ・ヒットでした。さすがは直木賞受賞作、抜群のリーダビリティでぐいぐい上下巻引っ張ります。
「山村」そして「山」、そこでの生活や人々の在り様…風物描写は臨場感を保ちながらもストーリィの進行を阻害しない、簡にして要を得たものだし、やはり特筆すべきは女性の描写の広さと深さ。
「山」にあって、閉塞され、抑圧され、あるいは搾取されている女性たち。炭坑町の遊女からやがて「山妣」となり、「原始の女性」*1に相応しい力強さを見せるいさ、その娘として生を受け、村の良家に娶られながらもやがてまた山に囚われるふゆ、女として瞽女として、二重に抑圧されながらも自分の論理に縋ってそこから逃れようとする琴*2、山村の閉鎖性と抑圧性を純朴のままに受け止め、翻弄される妙…。「山」においてさまざまな女性性が顕現する、主題に相応しい厚い造形です。半陰陽である涼之助を除いては、男性陣が皆浅薄なのと対照的。特に鍵造、なんだあのオチョコは。
一章・二章の没入感と比べて、三章からクライマックスにかけては若干平板に感じられてしまったりもしたのですが、全編通じて、豊かでなによりしたたかな女性たちに、たくさん翻弄してもらえる作品。蛇足ですがこの世界観なら、猫殺し? それが何か? という感じでありましょう。
力作です。
評価はB。

山妣〈上〉 (新潮文庫)

山妣〈上〉 (新潮文庫)

山妣〈下〉 (新潮文庫)

山妣〈下〉 (新潮文庫)

*1:太陽であった、みたいな話にするには影を背負いすぎだけれど…。

*2:最期のせつなさときたら…。