中村ふみ『裏閻魔』エイ出版社

ネタバレ一応注意。
先輩にプルーフを貸していただきました。
「ゴールデン・エレファント賞」という新人賞の第一回受賞作とのことであります。
中心的なアイデアは、それを刻んだ者が不老不死を得るという「鬼込め」という刺青。維新志士の主人公が死の淵でそれを刻み、不死の存在として、原爆投下まで、言わば日本の近代史を生きるという試み。
その試み自体にはスケール感があります。それを新人賞に出そうという意気は買えるようにも思いますが、しかしいかんせん、想像力と筆力が、まったく追いついていないように思います。
文章のレベルが低いのは、まあこれから巧くなるかもなのでしょうがない、でもディテールを描こうという意思が感じられないのはよくない。特に「鬼込め」に関しては、その由来や因縁、実際の展開場面、あらゆるディテールが、それが小説の中心的なアイデアなのに極めて貧困。ラノベあるいはコミック的な、チープなガジェットの域を出ていない。こんなんでいいわけないと思う。
それ以外の要素も、頭で考えたキャラクタや場面、エピソードを、ただ順繰りになぞっているだけのような印象があります。奥行きを欠いた描写・世界観は「ラノベ時代小説」的であるという以前に、そもそも一貫した小説としての像を僕の中に結んでくれませんでした。特に主人公や敵役の造形、出てくる度に違う人間に思えてしょうがなかった。
あとBL的な要素を入れたいんなら、もっと徹底してやった方がいいと思う。ショタキャラが中途半端に捨て犬拾ってる場合じゃないでしょう。
評価はC。

裏閻魔

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