J.アーヴィング/筒井正明(訳)『ガープの世界』新潮文庫

ネタバレ一応注意。
家庭内読書会「古典的名作を読もう」企画、第六回課題本。
月が変わってしまいましたが、三月の課題本です。
「古典」と言うには、アメリ現代文学の代表作家そのものですが、まあ「現代の古典」ということで。
そんなエクスキューズをしながらも、実際はきわめて「古典的」な作品だと思いました。少なくとも、そう呼ぶに足る風格のようなものが備わっている、と。
主人公の一族の(ほぼ)三代記、フェミニズムなど「現代的な社会問題」が取り入れられてもいるが、「叙事的」な作法が「古典」を感じさせるのだと思う。「神の視点」に立ち、長大な物語構成と精細な思考・事物の描写を兼ね備え、しかしセンチメントに流れる浮ついた「叙情」は排されている。「彼ら」の思考や営み…すなわち「世界」を、悲喜劇的な叙事として描くことで、この小説は、(自伝的要素も相まって)きわめて個人的で現代的なものでありながら、一方では全体的で古典的な風格と力感を備えられていると感じる。
でもそんな中、小説がキャッチーさを失わず、キャラクタたちも愛らしい存在感たっぷりなのは、作家自身のキャラクタの抑えきれない発露なのかも、なんてことを思う。アーヴィングってこの人、絶対面白い人だと思うわ。
評価はB。

ガープの世界〈上〉 (新潮文庫)

ガープの世界〈上〉 (新潮文庫)

ガープの世界〈下〉 (新潮文庫)

ガープの世界〈下〉 (新潮文庫)