樋口有介『船宿たき川捕物暦』ちくま文庫

ネタバレ注意。
田沼意次治世下の江戸を舞台にした、著者初の時代小説。
作者のキャラクタ的に、もっとライトな…穿った見方としては最近粗製濫造が目立つところの…時代小説かと思っていたのですが、あにはからんや。地理的な考証や風物の描写、隅々にまで細密な筆の行き届いた堂々たる本格捕物帳の雰囲気があって、感心してしまいました。もはや風格さえ感じられるところ、さすがの小説巧者であります。
物語の方も、当初は剣客小説的な面白味で引っ張りながら、やがてプロットが拡大し、時の老中との対決構図に持っていって決着させる、その広がりが見事です。キャラクタもそれぞれ立っているけど、女性キャラは現代ものの様々にトガって魅力的なヒロインたちに比べると大人しいかな。
でもせっかく主人公のモテ男を取り巻いていろいろな女性たちを出してきてるので、恋の鞘当てはここだけで完結させずにシリーズで引っ張ってもよかったような…ちょっともったいない。唯一この本では伏線にとどまった由紀江嬢をめぐるお話は次以降なんだろうけど、それに手出すのはミイラ捕りのなんとやら。樋口作品はコレがあるからな…。
評価はB+。

船宿たき川捕物暦 (ちくま文庫)

船宿たき川捕物暦 (ちくま文庫)