江國香織『落下する夕方』角川文庫

ネタバレ注意。
主人公・梨果が、8年の同棲を経て別れた恋人が思いを寄せる女性と、なぜか同棲することになる…という恋愛小説。
プロットはたいしたものじゃないし、キャラクタにも感情移入できないし、終盤のある転回もまったく好きになれない志向のものではある。しかしなんと言うか、共感できる部分とトガった部分、穏やかな文章と才気走った比喩、そうした相反する細部が混然と世界を形作って、それらが清新さとあたたかみを持ってじんわりしみ込んでくるような、読んでいて快い印象のある小説ではあって、そうした技巧を認めるにやぶさかではないかな、と。
《健吾に会うのは空をみることと似ている。》(71p)、《健吾が返事をしないので、私は思いつくままに淡々と喋った。まるでフェイクなセックスみたいに。》(113p)、《華子と健吾が会っていると思うのは、絶望的に胸の痛むことであるばかりじゃなく、神様の国の平和な黄昏のように心のやすまることだった。》(123p)なんて、狙いすぎでスベってるとしか思えない比喩が散見されるけど、その驚きもちょっとしたエンタメではある。
評価はC+。

落下する夕方 (角川文庫)

落下する夕方 (角川文庫)