打海文三『ハルビン・カフェ』角川文庫

ネタバレ注意。

福井県港湾都市を舞台に、難民流入による治安崩壊と新秩序の構成、その中で相次ぐ殉職に私的制裁を加える警察の裏組織と、それを摘発しようとする公安や監察課の思惑が渦を巻く、近未来架空史ハードボイルド・ロマン。

ハードボイルドの正道に則ってクールでありつつ、どこか文学的な香気を纏う、精緻な文章は一級品。様々に視点を入れ替えつつ、北陸の小都市を権謀術数入り乱れるカオス・ポイントに仕立て上げる小説技巧も見事なもの。

ただ、ストーリィのダイナミズムという点では若干の物足りなさを感じたのも事実だし、一冊の長編としてかなりフォーカスされている中心人物の魅力という部分においても、惹き込まれるにはもう一段の造形、トガったものがほしかったなーという感じ。

その辺は先に『裸者と裸者』を読んだから思うことで、それをよりオトナな小説に洗練させたともとれるこの作品にそうしたことを思うのは、俺の読み手としての未成熟を示すものかもしれませんが…。

しかし「福島原発事故」とか、より卑近なとこでは「J3」とか、企まずして未来予知しちゃってるのは、表現者の資質としてジャンルを問わずまま見られるものだなあと。

評価はB。

ハルビン・カフェ (角川文庫)

ハルビン・カフェ (角川文庫)