打海文三『裸者と裸者』角川文庫

ネタバレ注意。
内戦状態の日本を舞台に、孤児たちのサヴァイヴを描く近未来SF。
優れたファンタジィ小説を、二冊続けて読んでしまったなあ、というのがまず。それをもったいなく感じるほどには、久々に没頭できた読書でした。
架空戦記的な考証に、移民やセクシャル・マイノリティの問題が絡んできてクリティカルだし、そうしたハードな世界観の中にも胸を打つキャラクタの交情のこまやかさがあり、硬軟兼備されています。最初は世界観に村上龍を、キャラクタの造形に村上春樹を感じて、足して二で割ったみたいな読み心地だなーと思ったけど、結構すぐにオリジナリティの波にのまれることになりました。
上巻は、海人というザ・好青年主人公が軍人として立身を果たすビルドゥングス・ロマンとして出色の出来。周りの大人たち…里里菜さんやヴァレンティン、イリイチ、白川といった人々の魅力がそれをしっかり支えている。下巻は月田姉妹を主人公に、よりパンキッシュな戦記アクション。パンプキン・ガールズが中心となるキャラの魅力は、上巻のそれより後退してるけど、そこはしかし月田姉妹のキャラで引っ張り上げてるね。

「世界はとっくに発狂してる」姉妹は言った。
「うん、発狂してる」イズールが言った。
「生きのびようとすれば、この狂った世界に適応するしかない」
「そうだね」
「邪悪な許しがたい異端の」
「なに?」
「邪悪な許しがたい異端の」姉妹はくり返した。「それがあたしたちの適応のかたちだ」
(下巻318p)

…流れで読むとかっこいいんだけど、抜き出すと中二だな。
じゃあもう一節。

「チャンホが寝込んじゃった。熱が三十九度もあるの」ひなびが言った。
感染症かなにか?」姉妹は訊いた。
「小燕派の報復を見たのよ。たぶんそのせいだと思う」
「ああ」姉妹はせつない声をもらした。「なんてまともなやつだ。抱きしめてやりたい」
(下巻350p)

クールで熱い、エンタテインメントSFの快作。
惜しいのは表紙イラストの低クオリティのみ。
評価はB+。

裸者と裸者〈上〉孤児部隊の世界永久戦争 (角川文庫)

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