森絵都『みかづき』集英社文庫

ネタバレ一応注意。

敗戦の混乱が収束しつつある昭和三十六年から現代まで、学習塾を興し、盛り立てていく大島家の人々のドラマを描く、三世代にわたる大河小説。

森絵都という作家への信頼感の由来は、文章力やキャラクタ・エピソードの構築力といった小説家としての基礎体力というところ以上に、作品のテーマに正対し、真正面からぶつかっていく、その清々しく潔い姿勢にある。

この大長編もさすが、教育という複雑で重みのあるテーマを大島家の人々に託し、質量ともに充実したエンタテインメントとして描き尽くした、確かな手応えの感じられる作品。

千明が菜々美とその友人たちに英語を教えるシーンや、『つきのふね』の忘れ難いラストシーンも思い出されて感動的な直哉の作文といったあたりには完全に落涙しました。

ラストシーンの余韻も出色、質実剛健ながら瑞々しい感性も煌めく傑作です。

評価はB+。

みかづき (集英社文庫)

みかづき (集英社文庫)