『ゆれる』

うーわ。
やばい、めちゃくちゃ面白かった。大傑作だと思います。
ハイライトシーンは間違いなく猛が証言を行う法廷のシーンで、古今東西見渡してもあれだけ緊張感とカタルシスを備えた法廷劇というのは稀有だと思う。「法廷劇」として、まずは一流。
香川照之はもちろん、それに引き出された部分も多いと思うのだけどオダギリジョーの芝居も非常に素晴らしい。この作品の主題において、二人は完璧な仕事をしています。数多い二人の掛け合いは、それが微笑ましいものであれエグく残酷なものであれ、ちょっとあり得ない充実度。特に最後の法廷に至る面会室でのシーンは、それが凝縮された、「密室劇」として珠玉の出来でありました。
で、その二つを総括して、面会室から法廷に至るクライマックスは、稔のルサンチマンとその昇華が、逆転された関係性、つまり猛にとって、「兄を陥れることが、自分自身がそこまで追い詰められてしまったという意味で、完全な敗北である」という逆説に託されて絶妙な脚本。それを圧倒的な凄みで魅せる香川照之の芝居。ここにこの映画が、なにより「心理劇」として計算・完成されつくしたその極北を見ることができます。
…物語のプロットだけを取り出したら、非常に文芸的な映画だと思うのだけど、まったくダレることなく、緊張感を保ったままラストまで突っ走ってるのが凄いと思う。もう笑うしかないエグさやユーモア*1という演出上の要素もあるだろうけど、充実の俳優陣の演技がなにより貢献していたでしょう。香川の凄さはもう十分に既知のこととして、オダギリはこの作品で完全にサブカル要素から脱却し得たと思うし、真木よう子の説得力もさすが、伊武雅刀も実年齢知らんけど見事な老け芝居。新聞干してるとことかたまらんものがあったわ。バイプレイヤとして新井浩文もいい仕事してました。あ、あとキム兄ね。『少年メリケンサック』もそうだったけど、彼はまずなにより「出オチ」として演出されるのねw 《僕もよくその査定で引っかかります》とかなんとか、その後も面白いこと言ってて、緊密な法廷劇の中の一服の清涼剤でした。
ひとつ不満、というか、それは主に俺の、視聴者の読解力が試されている部分だと思うのだけど、クライマックスを越えた「七年後」に関してはどうもよく咀嚼できなかった。猛が絶叫する台詞を、稔がそれに対して浮かべた表情をどう解釈するのか、それは観るものに跳ね返された視線であるのかもしれませんね。
ただ、その余韻までを含めて深く満足しました。好きなタイプの映画だったし、もう一度言うけど客観的に大傑作だと思います。

ゆれる [DVD]

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*1:オダジョーと真木よう子がSEXしてる最中、香川が給油してるあの暗喩には笑ったよ。あと《魚がいるー!》かな。しかし後から思えばエグい芝居だな香川w