桐野夏生『玉蘭』文春文庫

ネタバレ一応注意。
表紙のデザインがよかったのでちょっと期待してたんだけど、うん、なかなかいい小説だったと思います。
小説としての客観的な完成度では、『OUT』あたりの方が高いかもしれない。この作品は作者の血縁に材を求めていることもあり、パーソナルな思い入れが小説としての緻密な設計をやや崩しているようにも感じられるし、物語の様々な軸がすべて収まるべきところに収まるとは言い難いけど、逆にそうした部分がスリリングでもあったり。
「軸」ということで言えば、質と浪子の章はとてもよかったです。哀切だし、大戦前夜の中国、という舞台もよく描けて、悲恋(と言うほど綺麗なものでもないが)が映えています。単純に歴史風俗として興味深くもある。
その他の章にしても、この作家のハードボイルド作品のような、題材のショッキングさを離れてなお、物語の奥行きと、登場人物の立体性で読ませる、小説家のジツリキを感じさせる出来でございました。
評価はB。

玉蘭 (文春文庫)

玉蘭 (文春文庫)