柴田よしき『聖母の深き淵』角川文庫

ネタバレ注意。
実生活が忙しめ、というのもあるのですが、実勢は借りた舞城にてこずって更新が滞っておりました。読みづれーよディスコ探偵! …まあその話はおいおい。
で、滞っていた売却予定小説レヴューから。基本的に近刊は読みたくて読んでる本ですね。
村上緑子シリーズの第二弾ですが、ことここに至って、桐野夏生、村野ミロシリーズの二番煎じの印象はますます強く。ジェンダーセクシュアリティ、またそのテーマの究極としての「母性」。
テーマが丸かぶりなのはいいとしても、その処理において技巧に差が顕著なのはまずい。『天使に見捨てられた夜』の感想で僕は、もっと「凄み」が欲しい、てなことを書いてましたが、今思えば巧いだけでも充分だったわ。この小説は、まさかこんなダサい真相じゃねーだろうな、と危惧していた狂言誘拐説(とホモ要素)がそのまま真相だったりして。細部の完成度、情念の描写、いずれもツメが甘いという印象もままあり。
小説としての安定性、スイスイと読ませるリーダビリティには一定の評価もできようが、エンタテインメント・ミステリとしての一般作の水準を超えうるものは見出せませんです。
そして、テーマがテーマでありながら、

「わたしは新しく始めようと思っています。本当の意味で自分が女性であるのだと認めて貰う為の努力を。そして本当の意味で同じ女として、侵害されている多くの女性達の権利の為に戦いたい。それが男達に引き裂かれた由香の魂に対してわたしが出来る、わたしなりの弔いであり、由香をあんな目に遭わせた奴等への、わたしなりの復讐なんです」
 緑子は、会釈をして店を出ていく豊の後ろ姿を、圧倒されて見つめていた。
 彼女は今、戦士になった。そして宣戦布告したのだ。牧村由香や神田都子が、あんな形で死ななくてはならなかったこの社会、そのものに。
(241-242p)

なんて、無批判・無自覚な文章を並べてしまうとこが一番まずい。
評価はC。

聖母(マドンナ)の深き淵 (角川文庫)

聖母(マドンナ)の深き淵 (角川文庫)