ネタバレ注意。
直木賞受賞の代表作。
さすがに面白かったです。不倫、幼児失踪、家族崩壊、死病…とネタのひとつひとつはまったく好みではないのだけれど、その絡ませ方、出し入れの仕方が巧く、ぐいぐいと読まされてしまいました。
抑制が効いて、どこかぶっきらぼうでさえある筆致は男っぽくてかっこいいし、それぞれに狂気を抱えた登場人物たちも皆魅力的…というか見事に気持ち悪いw そうした彼らの孤独の深さが、この小説をある孤高の場所へ押し上げてもいるように思いました。
そしてその流れに、ラストシーンもまた美しく落とし込まれてある。様々な人生の交錯の果て、突如口を開ける最も大きな空虚。一種のリドル・ストーリィとして、理想的なフォルムをしているように思う。
「感想って言えば、ひとつだけあるね」
「何すか」
「あの子は本当にいたのかって。有香という名前の子供は存在したのかって本気で疑ったことあるんだよ。だって、消え方が変でないか?」
(上巻、253p)
…という述懐を読んでて面白いと思ったんだけど、読後振り返るとまた意味深い台詞である。
…巧いぜ。
評価はB。
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