桐野夏生『水の眠り灰の夢』文春文庫

ネタバレ注意。
村野ミロの「父親」、善三の若きトップ屋時代(とその終焉)を描いたハードボイルド・ミステリ。
「トップ屋」華やかなりし時代の空気はよく描けていて、高度成長期を舞台とする風俗小説としてよくできているし、ミステリとしての中心的な題材からくる暗く淫靡な雰囲気も、その大状況との対照で印象深いものになっている。既読のミロシリーズでもいい味出してた「村善」のシブいキャラクタをはじめ、トップ屋仲間や水商売のオネーサン方、大作家の息子で「アーティスト」のボンボン、絡んでくるヤクザ連中、ミロの母親・早重と、殺害されてしまう女子高生・タキという二人の、陰りを帯びたメインの女性キャラなど、メインでもワキでも、キャラクタにはそれぞれキラリと光る部分があって、さすが過不足のない、いい「小説」ではあると思う。
だけど、「ミステリ」としての結構……最初は関係なく思われた二つの事件、連続射撃・爆弾魔と女子高生連続殺人の重なり合った決着が、どうにもご都合主義的に思われて受け付けなかった。惜しかったけど、粗雑だと思う。
評価はC+。

水の眠り 灰の夢 (文春文庫)

水の眠り 灰の夢 (文春文庫)