池井戸潤『最終退行』小学館文庫

ネタバレ注意。
お得意の内幕ものに、冒険小説界隈ではお馴染みの「M資金」をめぐるコンゲーム要素を絡ませた、長編銀行ミステリ。
レーベルからしてもちょっと油断して読んだら、めっちゃ読み応えのある力作で愉しみました。池井戸作品No.1かも。
これぞ自家薬籠中の銀行ネタと勧善懲悪は、長編だけあって矮悪巨悪多段構えをブチ抜いてく感じでカタルシスあるし、トレジャハンタの面々が絡んで、銀行の内/外、そして物語の善/悪が反転するプロットは、銀行テーマの必然性と批評性を感じさせ、またピカレスク・ロマンの風合いも添えていて面白い。「M資金」を単なるガジェットに終わらせず、マネー・ロンダリングに活用するってアイデアもなかなかに卓抜だし、摩矢というキャラクタに託して、想定読者層に対するナルシスティックでエロティックな浪漫性が供されているあたりも計算高いw
社会派としての要素が物語にしっかりと根を下ろして、完成度の高いエンタテインメント・ミステリの傑作。ちょっと全てがうまくいきすぎのような気はするけど、仕事の息抜きにわざわざ仕事の話読んでんだから、こんぐらい痛快にやってもらわんとね。
評価はB+。

最終退行 (小学館文庫)

最終退行 (小学館文庫)