桐野夏生『OUT』講談社文庫

ネタバレ注意。
なるほど、確かに面白かった。
映画を先に観ていたから*1、大まかなストーリーは把握していたのだけど、佐竹というキャラクタの、映画とはまったく異なる存在感が、物語にも大きな位相変化をもたらしている。コレに比べたら映画版の間寛平なんて空気だな。
映画は結局、日常に疲れた女たちが、死体解体という非日常に叩き込まれることで活力を取り戻していく…というレベルの話だったけど、原作はより主人公・雅子に焦点が絞られ(邦子死ぬし)、特にクライマックスでの佐竹との凄絶を極める「交情」は、人間の存在とその宿業を抉る名シーンだ。もし映画が原作に忠実に、このシーンをも写し取ろうとしていたならば、原田美枝子は演っただろうか。個人的には観たかったが、でもその場合佐竹に寛平師匠はありえまい。
邦子の描写などマンガ的でツメの甘い部分もあるけど、「主婦による死体解体」という題材のショッキングさに安易に逃げない、骨太で、でもしっかりエンタテインメントした小説である。
評価はB+。

OUT 上 (講談社文庫 き 32-3)

OUT 上 (講談社文庫 き 32-3)

OUT 下 (講談社文庫 き 32-4)

OUT 下 (講談社文庫 き 32-4)