立原正秋『冬の旅』新潮文庫

ネタバレ注意。
とっておき、貸していただきました。
最も強い印象としては、とても「執拗」な小説だと思いました。象徴するのはやたらと頻出する隠語の類だけど、もちろんそれは枝葉末節で、中心的なそれは登場人物の造形について。
行助はどこまでも内省的にゴーイングマイウェイだし、理一はどこまでも家父長のなんたるかを体現せんとし続けるし、安はどこまでも善良で、厚子はどこまでも献身的で、修一郎はどこまでも徹底的に愚劣である。
読みながら、視点はそうしたあまりに「直截的」な人格の彼らを見下ろす形で常にある。でもそれは単純だとか一面的だとかいう評価に繋がるものでもなくて。ここまで徹底していると単純に「面白い」と感じてしまったり、稀有な喚起力と迫力のある小説だと思う。中途半端にしてたら、作者の意思とはおそらく離れたところで、喜劇にしかならないと思う、これ。
作者名とタイトルの感触から、*1もっと繊細で耽美的な小説をイメージしていたのだけれど、どこか得体の知れない、妙な力感のある小説だったように思います。
一番好きだったのは、修一郎が厚子を尾行して、見失ったと思ったら実は座っただけだった、というシーン。爆笑してまったわ。ホントバカ、こいつwww
評価はB。

冬の旅 (新潮文庫)

冬の旅 (新潮文庫)

*1:立原道造だろうか。あるいは北原白秋だろうか。