ネタバレ注意。
「特別養子縁組」をめぐる二人の「母」の、人生の交錯を描く長編。
辻村深月読んでていつも「よく描けてるな」と思うのだけど、それは必ずしも100%の賛辞ではなくて。よく調べて、よくプロット考えて、よく文案練って書いてるんだろうな、と。そうして出て来たものは、リアルで瑞々しいんだけど、正直に言ってどこかいやらしいんだよな…そもそもこの小説は、サスペンス仕立ての構成からして狙い澄ました感があるけれど。
例えば佐都子がママ友たちに対してスーパーの袋のロゴを隠そうとするところや、清和の母が土下座して言う台詞。そうしたシーンは印象的だし、作家の表現したいものを描く重要な描写だけど、同時にリアリティへの執着と人工性を漂わせて物語から浮き上がっている。
普段の俺はこういうものを「巧いなあ」とも「いたたまれないなあ」とも同時に思う厭な読者だけど、しかしこの作品においては、そうして丹念に、細部に執着しなければ描けない主題の存在を認めないわけにはいかないし、それを認めさせるだけの力が宿っていると思う。胸が塞がれるようなひかりの物語が執拗に語られた後に、それでも光射すラストシーン…ひかりと佐都子の再会は、だからこその鮮烈さで胸に迫る。
「ごめんなさいね。わかってあげられなくて」
(349p)
誰をも救うことはできないけれど、せめて人生で行き逢った人のことぐらいは分かりたい。分かろうとしたい。そうした思いの率直さと切実さが美しく貴い。
ふとしたきっかけで落ち込んでしまう人生の隘路や苦境、それを自己責任だとか愚昧だとか《バカを見た》(254p…オヤジやばすぎw)で終わらせたくないものですね。社会保障改悪して、その弥縫に家族価値観使おうとしてる恥知らずの為政者連中はその辺よく考えなよ。
まあいくら分かりたいつったって、河瀬直美がなんでこんなつまらない解説書いたのかはどうにも分からないんだけどなw
評価はB-。
- 作者: 辻村深月
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2018/09/04
- メディア: 文庫
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