天藤真『陽気な容疑者たち』創元推理文庫

ネタバレ注意。
田舎村の富豪の死をめぐる、カントリィ本格。
知性とユーモアの効いた筆致が心地よく、頑迷固陋、傍若無人のクソジジイに翻弄される田舎村の人間模様にぐいぐいと引き込まれていく中で、作者の仕掛けた大きな企みに知らぬ間に侵食されていくという、野心的で巧緻な、しかし人工性の厭味のない、瑞々しささえ感じさせる傑作。
「計画」の意図、密室破りのトリック、個人的にはそうした根幹の部分にやや清明さに欠けるものを感じもしたが、全体としてこの作品が愛すべきものであることに変わりはない。やわらかく、あたたかで、人の善性が根底に流れる本格ミステリ…多くを読んだわけではないけど、天藤真という作家のこうした作風は、ともすれば空疎な虚仮おどしとの誹りを受けるジャンルにおいて、いかにも珍重すべきものではないか。
評価はB。