多岐川恭『落ちる』創元推理文庫

ネタバレ注意。
創元推理文庫からのコレクションの掉尾を飾る、短編傑作集。
「みかん山」のようなバカトリックの青春ミステリもあれば、「笑う男」のようなお得意の倒叙もの、「二夜の女」のような中間小説風のもの、「ある脅迫」「私は死んでいる」のような奇妙な味まで。本格から出発し、時代小説や中間小説もよくものした直木賞作家の、流行作家たる作風のバラエティが愉しめる好編集です。
プロットのバラエティ豊かな中にも、独特のリリシズムと、一抹のエロティシズムが品を崩さずに同居していて、それが通底する作風を感じさせて印象がよかった。それに異常心理を掛け合わせ、効果的なサプライズが見られる表題作が一番よかったけれど、「黒い木の葉」は多岐川リリシズムの極北を示して印象的だし、「笑う男」も、柱時計なんて垢抜けないキーアイテムの、しかしラストの処理で見事に反転してリリカルな演出なんてツボだったな。リリシストだわ、せつねえ…。
評価はB。

落ちる (創元推理文庫)

落ちる (創元推理文庫)