岩井志麻子『永遠の朝の暗闇』中公文庫

ネタバレ注意。
不倫の恋にのめり込んでいくOL、その相手の妻でキャスタとして成り上がろうとする地方タレントの女、その娘の女子中学生、三人の女の視点で描く、「女系」家族小説。
正直に言って全然つまらなかった。シマコ作品のワーストに近い。心理描写の質が低いと思うし、それも時代物同様の粘着質な筆なので、非常にまどろっこしい。香奈子が今井に、シイナが竹島に、美織が岸に、それぞれ惹かれる過程が全く腑に落ちない。特に美織と岸の顛末は支離滅裂だと思う。
アサリのスパゲティの中の蟹だの、ホビロンだの、食に託した比喩ないし象徴性も、唐突だしスベってる。シイナがベトナムでユンのお母さんと気持ちを通じさせるところぐらいかな、見るべきシーンは。
個人的な嗜好として、シマコに求めてるのはこういうんじゃないってのはあるけど、やっぱ客観的にスベってるとしか思えない。自伝的要素が気合(濃やかな小説ではあるので)と、その結果としての空回りに繋がったってのは事実であると思う…プライベート切り売りはいつもの芸風としても、美織のエピソードのお花畑ぶりに特に空回りが顕著なので、シマコも所詮は人の親かと、それは微笑ましい感慨でもありますが。
評価はC−。