柄刀一『御手洗潔対シャーロック・ホームズ』創元推理文庫

ネタバレ注意。
タイトル通り、二大名探偵のパスティッシュ作品集。それぞれの短編の後に、中編「巨人幻想」に対決趣向を盛り込む。
御手洗もの「シリウスの雫」の幻想的なヴィジョンが島荘本格論に愚直でよかったのと、ホームズもの「緋色の紛糾」におけるホームズお馴染み人物像推理の茶化し…間違った推理をなんとかホームズの無謬として解釈しようとするワトソンの盲目(統失)ぶり…が面白かった。
それ以外で「本格」として惹かれるところはそんなになくて、最も力の入った「巨人幻想」も謎のスケールだけはデカいけど、解決はその矮小化にとどまってしまったのが残念だった。島荘言うところの「本格ミステリー」は、謎が解体されることでさらにスケールの大きな(あるいはロマンティックな)幻想性が現出するようじゃないと、その理想を体現したとは言えないわけで。相当の難事であることは間違いなく、その意味では前述「シリウスの雫」のが近い。あと島荘はよく文章論も語るけど、自身の本格論の追随者である柄刀の文章に何を思うやら。《もしかすると、それは、知能の奥にあるけれども決して劣っているわけではない本能的な直観としての感性に対して、という意味なのかもしれない。》(「巨人幻想」、402p)とかさー、いつものことだけど。
しかし作者も本編以上に面白いとか自己韜晦してるところではあるけど、島荘の筆になる解説代わりの「石岡和己対ジョン.H.ワトスン」はよかった。東西屈指の「ワトソン」が繰り広げる、自らの「名探偵」アゲの往復書簡による舌戦。その大人げなさに、彼らがまた東西屈指の「母性的庇護欲くすぐりキャラ」であることを見ることができます。つか凄い史的価値だわw
評価はC+。

御手洗潔対シャーロック・ホームズ (創元推理文庫)

御手洗潔対シャーロック・ホームズ (創元推理文庫)