江戸川乱歩『江戸川乱歩全集 第3巻 陰獣』光文社文庫

ネタバレ注意。
大きく分けて四部構成。「踊る一寸法師」「人でなしの恋」「鏡地獄」を中心とする短編群、怪奇冒険探偵小説「空中紳士」、そして長編最高傑作*1の誉も高い「陰獣」の二長編と、掉尾に置かれて一層の存在感を放つ短編「芋虫」。
短編に関してはこれまでの巻と感想大体一緒だし、自虐芸引用するのも飽きてきた。「空中紳士」はレトロで荒唐無稽でそれなりに愉しい小説だが、取り立てて語るべきとも思われない。この巻に関してはやはり、「陰獣」と「芋虫」。
「陰獣」に関しては、乱歩らしい怪奇趣味と変態性が前面に出ながらも、実はプロットの意外性や伏線の洗練が兼備されていて、トガっていながらもバランスのいい「怪奇探偵小説」に仕上がっている。さらに作中「大江春泥」として、「江戸川乱歩」という作家の似姿が揺曳するメタフィクショナルな構成は、ラストに至って真相の特権性が揺らぐ、アンチミステリ的なニュアンスにも木霊している。趣向としても作品の質としても、ここまでの作家としての歩みを総決算するのに相応しい内容、正史もこの原稿受け取った時はテンション上がっただろうなw
そして「芋虫」、グロテスク/露悪趣味の極地とも言える題材・展開を採りながら、ある「赦し」を経て、ラストの寂寞とした情景にはどこかしらの感動が宿っているようでもあり。こうした最もラディカルに露悪的な作品で、最もヒューマニティを感じさせるという大乱歩、さすが並の作家ではありません。ひときわ異形の光を、作家としてのヒューマニズムの側面に照射する、まさに怪作。
評価はB+。

江戸川乱歩全集 第3巻 陰獣 (光文社文庫)

江戸川乱歩全集 第3巻 陰獣 (光文社文庫)

*1:俺は「孤島の鬼」よりこっちだと思うなあ。