S.S.ヴァン・ダイン/日暮雅通(訳)『僧正殺人事件』創元推理文庫

ネタバレ注意。
家庭内読書会「古典的名作を読もう」企画、第五回課題本。
黄金期本格のマスターピース、恥ずかしながら初読です。
ニューヨークの住宅街に連続する、マザー・グースの見立て殺人。この「見立て殺人」という、本格ファンとして心騒がせずにはいられない卓抜なアイデアの始祖として、堅牢でいて蠱惑的な作品でした。僕は本格の原風景が綾辻なので、「見立て」は『霧越邸』の刷り込みがあるし、そもそも「ヴァン・ダイン」の名前は別の意味でも印象深…ゴホンゴホン。
…まあとにかく、馴染みのいい作品だったということです。
数学や物理学、あるいはチェス理論を奉ずる、理系キャラクタが大勢を占めるのですが、それぞれうまく描けていると思いました。特にアーネッソンの造形は卓抜で、名探偵ファイロ・ヴァンスは完全に食われています。そしてこれはラストの犯人同定のどんでん返しをより鮮烈なものにしているので、その点でも見事と思いました。またそこにはこの作家独特のペダンティズムの貢献も見逃せないところで、やはり小説としての完成度は本格としての完成度と比例するよな、とその原点において再確認した次第。でもこのぺダンティックな世界観は、旧訳で読んだらより味わえたかな、という思いもあったり。いや、読み易くていい訳でしたけどね。
ロジカルな鮮烈さこそそれほど感じられませんが、しっかりエンタテインメントした本格です。名作でしょう。
評価はB+。