辻真先『たかが殺人じゃないか 昭和24年の推理小説』東京創元社

ネタバレ注意。

昭和二十四年、名古屋の新制高校三年生として、推理小説と映画の部活動に勤しむ主人公たちが、殺人事件の謎に挑む長編。

戦中派ならでは、戦後復興期名古屋の豊かなディテールは、そこに暮らす者として引き込まれずにおれない。ほんのりとせつないボーイ・ミーツ・ガールが彩る青春ミステリとしても、米寿作家の筆になるものとは信じがたいヴィヴィッドさ。タイトルの含意も含め、ポスト戦記小説としてもインパクトのある社会派ぶり。

そうした小説としての面白さはやはり一級のものがあるので、本格ミステリとしての物足りなさ…よく練られたパズラ/トリック・ミステリではあるが…は自然と目をつぶれた。犯人の造形には卓抜のものがあるし。

まあなんにせよ、米寿の御年でますます旺盛な執筆意欲には敬服します。皆川女史といい、怪物じみたベテランが頼もしいミステリ界隈。ランキング総ナメもおめでとうございます…まあ本ミスまでは難しかったっすね。

評価はB-。

たかが殺人じゃないか (昭和24年の推理小説)

たかが殺人じゃないか (昭和24年の推理小説)

  • 作者:辻 真先
  • 発売日: 2020/05/29
  • メディア: 単行本