北村薫・宮部みゆき(編)『推理短編六佳撰』創元推理文庫

ネタバレ一応注意。
第二回創元推理短編賞の最終候補作を集めたアンソロジィ。
いかにも創元な日常の謎あり、スリーピング・マーダーあり、暗号モノあり、恋愛モノあり、とバラエティ豊か。それぞれ光るものはあって、「大賞は出ないけどもったいないから、いいの選んで本にしましょう」となったのも頷ける。
一方確かにどれも一長一短の部分はあって、その意味でも両編者の解説対談における非常に正鵠を射た指摘・アドバイスは興味深く面白い。さすがは国内最高峰の小説巧者と感じられる。でも結局ほとんどの人がそれをモノにはできなかったみたい。職業作家として立てたのは永井するみ*1と、あとはせいぜい釣巻礼公に単著があるぐらいか*2
で、その永井するみ瑠璃光寺」が俺のベスト。年上の人妻との不倫恋愛に、心理的なサプライズを絡め、風情のあるガジェットと描写で手堅くまとめた職人的な一品。小説的な完成度では図抜けているが、「本格」とは言い難いし、こうまでまとまってると逆につまらないという評価もあるかもね。赤江瀑とか皆川博子みたいに、もっと耽美的な情念が迸ってたらなおよかったけど、それもまた方向性違うな、この後もそんなの書いてないし。
一方、植松二郎「象の手紙」は、連作をにらんでのものか余計なガジェットやエピソード、伏線(?)詰め込んでて、そういう過剰な部分が、本筋のハートウォーム含めて愛らしかった。
特に記すなら上記二点かな、という感じ。でも本格ゴリゴリの、硬派なフーダニットがない、あるいはそっち寄りのものほど達成が低く感じられるのは少し寂しい気もする。やっぱそういうのは短編じゃあ難しいのだろうけど、だからこそ法月とか麻耶ってのは天才だよなあ、とも思うのでした。
評価はB−。

推理短編六佳撰 (創元推理文庫)

推理短編六佳撰 (創元推理文庫)

*1:逝去の由。合掌。

*2:最終候補の最終候補には西澤保彦三津田信三の名前があるが。