安東能明『鬼子母神』幻冬舎文庫

ネタバレ注意。
今は亡き「ホラーサスペンス大賞」の、第一回特別賞*1受賞作品。
まあ「ホラーサスペンス」でしょうね。よくあるDVモノ・児童虐待モノと見せかけて、代理ミュンヒハウゼン症候群という特殊症例でツイスト。
ガジェットとしては面白いと思うのだけど、文章・蘊蓄の出し方・人物造形といった基礎部分が拙劣なので小説として生きてはいないね。各人の行動原理が不明確だったり、背負ったトラウマが安っぽかったり、時々比喩が意味不明だったり…《養護学校の教諭みたいに一人でやってくる。》(73p)とか。
保健婦として虐待事例にコミットしながら、家庭では自分の娘を虐待している、みたいな主人公の造形は野心的だとは思ったが、残念ながらこの筆力では荷が重い。
評価はC。

鬼子母神 (幻冬舎文庫)

鬼子母神 (幻冬舎文庫)

*1:ちなみに大賞は黒武洋『そして粛清の扉を』。まあアレだ、第一回から完全にスベってるわ。