吉村達也『ランプの秘湯殺人事件』講談社文庫

ネタバレ注意。
トラベル・ミステリ。
温泉地を舞台にしたシリーズらしく、ここでは宮城県は湯ノ倉温泉が舞台。人里離れて交通も不便、そもそも電気がきていないという、必然としての「ランプの秘湯」です。
舞台設定じたいは魅力的、というかいいロケーションだと思うのだけど、いかんせんミステリとしてのプロットが粗雑。せっかくの隔絶された秘湯なのにクローズド・サークル的な展開もなく、事件が起きるのもただでさえ薄くて活字の大きい本の半分近くきてから、犯罪に関わるあらゆる秘密はとある困ったちゃん(結局犯人)によって必然性なく暴露、芋蔓式に関係者全員が口を滑らせてしまい、捜査側は二人も刑事がいるのに独り語りを聞いてるだけ、という謎構成。「ランプ」をめぐってのロジカルな展開はあれど、湯の中につかったぐらいで100%「割れる」もんかね? というその根本部分に疑問符。
会話文の比重が異常に多い、過度に読みやすい文章が「秘湯」の魅力をまったく描出できていないとか、小説・文章のクオリティは志向性として置いておくとしても、ここまでプロットがいい加減なのは、粗製濫造の誹りを免れないでしょう。
評価はC−。