T.カポーティ/佐々田雅子(訳)『冷血』新潮文庫

ネタバレ注意。
家庭内読書会「古典的名作を読もう」企画、第一回課題本でございます。
カンザス州での富農一家四人惨殺事件の顛末を描いたノンフィクション。
恐ろしく丹念な(あるいは偏執的な)取材を元に、克明に、冷徹に、事件とそれにまつわるあらゆる事物の起源と、「その後」の影響・変化が記述される。一流の「小説家」である著者の筆は臨場感に溢れ、映画的な構成を伴って印象深い。クライム・ノンフィクションの分野では、あるいはその枠を超えて、確かに「最高峰」と呼ばれて然るべきクオリティを備えていると思います。
単なる記述のレヴェルにとどまらず、当初は比較的慎重派、感性に秀でた思索派として描かれ、どちらかと言えば従犯的存在として描かれていたペリーが、殺害段階においてその役割を反転させるなど、サプライズ、あるいは文学的なクライマックス/ハイライトを、ごく自然に備えてしまっているところも凄いね。
不満があるとすれば、クレア夫人が息巻いていたような、共同体内での不信感やその因子について、もっと掘り下げてほしかったようにも思うけど。でもそれやったら、ただでさえ長いこの本、倍の厚さになるだろな。
"IN COLD BLOOD"の示す行為が、殺人であるのか、死刑であるのか、その一部始終をこれ以上なく丹念に掘り起こし、さらにはそれを記録して出版すること、あるいはそれを消費することにあるのか、重層的な意味を含んだタイトルも含め、よく構成されたさすがの作品でした。
評価はB。

冷血 (新潮文庫)

冷血 (新潮文庫)