佐野眞一『唐牛伝 敗者の戦後漂流』小学館文庫

ネタバレ特になし。

「唐牛の100メートル以内は常に革命的だった」
藤本敏夫による評、158p)

60年安保闘争のリーダ、共産主義者同盟(ブント)委員長、唐牛健太郎の漂流の人生を描く評伝。

《無頼になり切るには知的にすぎ、知的になり切るには無頼にすぎる》(西部邁による評、544p)、天性の人誑しであった唐牛の、漂泊の中にあっても一本筋の通った…それを男気などと言ってしまってはあまりに安っぽいが…人生を、丹念な取材と証言で描き出す力編。

単なる人物伝、ないし唐牛を取り巻く青春の群像史としてだけでなく、昭和日本の裏面史としてのスケール感もあって面白いが、ノンフィクションとしてまとまりを欠いた印象も一方ではある。しかし綺麗な脈絡ににまとめあげられないのがこの時代の、そしてその敗者たちの複雑さであるのだろう。

ブントの人々はやっぱり、その後の赤軍だなんだと比べても人間としての格が違う感じがするよな…「将たる器」島成郎を筆頭に。島や青木昌彦らのその後に比べると、唐牛の漂流の人生はもの寂しさを感じさせもするが、ラスト、夫人による《「唐牛は自分が今いる場を居心地の良い場所にする天才だった」》(548p)という一言に全てが救われる思いがする。傍から見れば場当たり的で、寂寞とした敗者としての人生であっても、嫁からこんな風に言ってもらえる男は、紛れもない人生の勝者だと思うよ。

…その一方で、敗者を超えた戦争のゾンビ、岸信介の一族は、やはり根絶やしにしておくべきだったのではないかと嘆息します。

評価はB-。