畠中恵『百万の手』創元推理文庫

ネタバレ注意。
しゃばけ』はつまんなかったけど、『ぬしさまへ』はそう悪くなかったので、ぶっちゃけ油断していました。
…まさかこんなに酷い有様だとは。
前半の青春ファンタジィ展開と、後半の社会派要素の混じったサイエンス・ミステリ展開の落差が唐突かつ意味不明。後者の「サイエンス」要素も、ネットで調べたレベルで酷い。絵空事を書くなら書くで、基本の叙述レベルにはむしろ高いものが求められるだろうに、性急・拙速な展開と、くどくどとまどろっこしい描写が混在していて、著しくバランスが悪い。主人公の母親とか、自殺してしまう少年とか、心情がまったく理解できない*1登場人物が多数。そもそも好きになれる登場人物が皆無*2、主人公の賢しらぶったクソガキっぷりとか、東とかいうキャラの、「ほら、あなたたちこういうキャラ好きでしょ?」とでも言わんばかりの阿漕な造形が非常に鼻につく。とにかくなんにせよ、小説を構成するすべての要素が未消化・未成熟です。
…一気に書いたらなんか疲れた。この人現代物はダメだね。時代物かつファンタジィってフィルタがあるからまだ読めたんだな。
そして、これは作品の瑕疵ではまったくないのですが、なんか「同じジャンルの人」っぽいから書いてしまうけど、ある小説家による解説が酷過ぎる。段落ごとに言ってることがてんでバラバラ、論理的な流れ、一貫性というものがカケラとしてない文章。何か所か声出して笑ってしまうような悪文でした。僕は「創元推理」というレーベルに一種のブランド性を認めているのですが、こういう頭の構造が論理的でない人が、そこで解説のみならず、ミステリ面して本を出してしまうというのは、それを損なうことにしかならないと思いますよ。
…まあ、大きなお世話でしょうね。久々に厭な感じのレビュー書いてまったわ。
評価はD。

百万の手 (創元推理文庫)

百万の手 (創元推理文庫)

*1:「説明」だけはされる。

*2:全員が全員エゴイスト。そしてその独善性はとりもなおさず、この作家の作風そのものだろう。