柄刀一『密室キングダム』光文社文庫

ネタバレ注意。
1200頁を越える巨編、読んでて久々に指が攣りそうになりました。
柄刀ははっきり言って「三月宇佐見」シリーズ以外は処分対象なのでしたが、年次ランキングで評判が良かったような記憶があったので読んでみたのです。
…しかし柄刀、やっぱり文章が絶望的に駄目。『サタンの僧院』とか「奇跡審問官」シリーズなんかの時代モノであればまだいけるんだけど、現代モノはつらすぎる。単純に下手ってのもあるんだけど、個人的にはこんなに相性の悪い文章家もなかなかいないです。

 不思議なものだ。
 常識に則った合理的な論理は、身近な犯人像を確実に決定づけている。それが信じられないという思いは、比べてみれば、根拠などないあやふやなものだ。
 しかし人の心は、その無根拠のほうを拠所にして平静を得ようとする。
 それは今までの生活の実感が拭いがたく、それを大事にしていると見ることもできるが、現実的な判断で営んでいく真の日常という意味において、無根拠の情緒的な惰性はやはり、自己欺瞞的な歪みだといえるだろう。
(720-721p)

…悪文の典型例みたいな文章だけど、こういうのって校正されないの? ちなみに柄刀先生の悪文例はこちらにも。
文章もさることながら、作中のリアリティのありようについていけないのもまたいつもの話で。事件の核心である隠し通路の存在を示した館の建築図面を図書室になぜか放置したり(警察が)、瀕死ながらまだ息のある被害者を放置して、「カメラ持って来い!」とか言って現場写真を撮りまくったり(警察が)、まったく伏線でもなんでもない、不条理かつ意味不明な思考と行動で、僕を小説のリアリティから締め出してくれました。
奇術師の館に密室殺人を乱舞させた豪奢な作品だけど、それらの物理トリックは大した謎も孕まぬまま、割とスンナリその場で解決され続ける。まして共犯も複数人いる。だからこれだけの巨編でありながら結末のカタルシスには乏しく、島田荘司の偉大さが懐かしく思い出される結果に。個人的な嗜好を言えばこのテの物理・デバイス系トリックって、解決されても「ふーん」って思うだけなのよね。
結局、気が合わないんだな、いろいろと。
評価はC。

密室キングダム (光文社文庫)

密室キングダム (光文社文庫)