『スラムドッグ$ミリオネア』

旧作落ちが待ち切れず。
遅きに失した感はありますが、準新作でレンタルしたことだけでも僕としては上出来でしょう。
で、アカデミー八部門、さすがの傑作です。
まずなんといっても、脚本が完璧です。大枠のプロット…クイズ番組の問題と、回答者の人生がシンクロする…が、思いついた時点で勝ち、という実に卓抜なものだと思いました。原作をどの程度忠実に写し取ったものかは分かりませんが、伏線の回収とラストの決着の仕方まで含めて、完璧な仕事だと思います。
脚本上のハイライトはやはり携帯電話のシーン、サリームがラティカに携帯渡した時点で、「あ、テレフォン来る!」つって異常に興奮したのですが、まさか「分からない」とはね。でもそれを聞いての安堵に溢れたジャマールの表情は、愛する人と本当に繋がれた(状況的にも、回答を自分に預けてくれたという意味においても)達成感に何より雄弁でしたし、それ以降はもう「It is written」の世界ということでしょう。三銃士の伏線めちゃくちゃ巧いと思ったのに、こんな使い方をするなんて。完全に裏かかれましたね。
トレインスポッティング』はまったくいいと思わなかったけど、ダニー・ボイルによる演出も今回は素晴らしい。キレのいいカットと多彩な音楽構成、なにより猥雑なサイケデリアが炸裂したムンバイの街並は、一種「都市映画」としてこの作品をとても魅力的なものにしています。カーストの直接的な影響はそれほど強く描かれていないので、インドを舞台にした必然性はまさにこの部分にこそ強く顕れていて。いや、メタ・インド映画的なエンドロール・ダンスもそうだけどさw 思えば『トレインスポッティング』にも都市映画としての必然性は感じられたので、ダニー・ボイルという人の表現の中核にあるものなのかもしれませんね。今回はロケーションの勝利も多分にあるかとは思いますが。
無名の現地俳優陣*1による演技も、このパワーと躍動感に満ちた映画を生き生きと推進しています。総合芸術としての映画、そのそれぞれの構成要素がガッチリ嵌った時の喚起力を、まざまざと見せつけられる傑作でした。

スラムドッグ$ミリオネア [DVD]

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*1:ベスト・アクトは幼少期ラティカ役の女の子で。