ネタバレ一応注意。
三人の少年競技ダイバを主人公にした、飛び込み青春小説。
もう、とにかく圧巻の、超絶的な巧さ。
「初体験だったけど、特別なことをしてる感じはしなかったから。なんていうか、すごくふつうのことをしてる感じでした。ごくあたりまえに宙にいるっていうか。ブラジル人がブラジルにいるみたいな」
(下巻123p)
人々がひっきりなしに行き交い、時間が光速で駆けぬけていく地の上で、要一は一人、身じろぎもせずに天から降りそそぐ熱いものを浴びつづけた。まるで時に打ちこまれた杭のように、いつまでもその場に立ちつくしていた。
(下巻137p)
あとは《芸のない象でも手放すように》ってのも卓抜な比喩だと思ったが、まず文章について。おそらく現在の日本の小説家の中で最も巧いのではないか。決して華美でも、独自の特長があるわけでもないが、まったく無駄がなく、流麗で、そしてどこかしら温かみのある文章が非常に心地よい。完璧に近い品質の文章だと思う。
そしてキャラクタの造型。初登場時には類型的に、あるいは大して特徴なく見えたキャラクタが、その後のなにげない描写や台詞、エピソードのひとつひとつで、鮮烈に輪郭がとられていくのが分かる。要一は海パン事件のエピソードひとつ、恭子は美羽を評価した台詞ひとつで、俺の中でそれぞれとても愛しいキャラクタになりました。あ、あとピンキー山田もね。
で、そのピンキーもといらくだ山田も大きく関連するところではあるが、構成の巧さも特筆すべきところ。ハードカバー版は4冊構成で、3巻までで3人それぞれを主人公にして、ラストの競技会に引っ張るって手法もまず巧みではあるが、そのラストの競技会がとにかく圧巻。飛び込みの巡ごとに視点人物を入れ替え、それぞれのエピソードを受けての得点経過をそのラストに持ってくるって構成なんだけど、小説の特徴的な構成が、これだけ効果的にドラマを盛り上げてる例を初めて見た。徐々に高まる高揚感の果てに待ち受けるラストの奇跡は、実に感動的です。
小説技巧に対する感嘆と、物語に対する純粋な感動が同時に押し寄せて来て、とても興奮しました。
あとさ、やっぱ影山徹の表紙絵はいいよね。
作品の評価はA。
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