永井するみ『唇のあとに続くすべてのこと』光文社文庫

ネタバレ注意。
アラフォー男女の恋愛ミステリ。
巧く描けている部分はある。主人公の女性は元広告代理店勤務、商社マンの夫と結婚して辞めて「駐妻」やって、帰国してからはイギリス滞在中におぼえた料理で料理研究家として自己実現、という笑ってしまうぐらいの上流階級ぶり。でもそれが嘘臭くも浮ついてもいないあたりがさすがの筆力。…でもぶっちゃけ、そんなところ巧くても…という感じではある。
岸って代理店時代の上司で不倫相手、辣腕転じてストーカー、というキャラの痛々しさも含め、一部のキャラ造形、ストーリィテリングに見るべきところはあるが、いかんせん一番大事な、藤倉への慕情ならぬ発情にまったく共感できないのが残念なところ。感情移入してのせつなさも、小説技巧としての感興もない。カラミこそエロいけれども。
真相やそれに深く関わるキャラクタの造形もありきたりに感じた。一編の恋愛ミステリとして水準にはあるだろうけど、永井するみ作品への事前の期待はもっと高いものだった。
評価はC。

唇のあとに続くすべてのこと (光文社文庫)

唇のあとに続くすべてのこと (光文社文庫)