帚木蓬生『閉鎖病棟』新潮文庫

ネタバレ注意。
ある精神病院での人々の交流、過去と現在、ある事件を契機に動き出す未来を描いた小説。
これはとてもいいお話です。やはり筆力の確かな作家であるし、「山本周五郎賞」という冠は、なにかこの作品にとても相応しいものであるように思えます。終盤は涙ぐみながら読みました。
精神を病むほどに傷つき、追い詰められた経験を持つ人々が、だからこそまっすぐ純粋に人を思いやり、またその絆によって強く立ち上がることができるのだという、ただその信念が示されたまさにヒューマン・ドラマ。プロットや待っている事象が読み取りやすい「王道」の弊害こそありますが、読むべきは精神科医である作者が登場人物=「患者」に向けたまなざしのやさしさや含まれる敬意、逢坂剛の解説の言葉を借りれば「公正さ」であるし、また素晴らしいのはそこに一切の作為性・偽善性を感じさせないこと。天童某あたりとは格が違うと思います。
チュウさんや秀丸さんをはじめとしたメイン・キャストと、彼らを支える人々に幸多からんことを、素直に願って本を閉じる、ワタクシにとっては珍しく、心が洗われるような読書体験でございました。
評価はB+。

閉鎖病棟 (新潮文庫)

閉鎖病棟 (新潮文庫)