奥泉光『シューマンの指』講談社文庫

ネタバレ注意。

指を失い、消えた天才ピアニストの復活の噂と、彼が関係した過去の殺人事件が描かれる、音楽ミステリ長編。

ちょっとイメージとは違って(『鳥類学者のファンタジア』的なエンタメ・ミステリと思っていたので)、音楽を介した哀切な青春ミステリであり、恋愛小説であり、やがてはアンチミステリ的な展開を見せる、なかなかに異形の「音楽ミステリ」(…であることだけは間違いない)だった。

なかなかにクセの強い作品ではあるが、作者一流の、稠密で端正な文体、知的興奮を喚起するリーダビリティはもちろん担保されている。ちょっと後半急ぎすぎの感がないではないが、そのあたりはトッカータ的な演出か…。

評価はB-。