連城三紀彦『恋』幻冬舎文庫

ネタバレ注意。

ロワールのホテルで出会った二組の日本人夫婦が、不倫の泥沼に落ち込んでいく長編恋愛小説。

モラリスト気取るつもりは毛頭ないが、こいつらのゲームめいた色恋沙汰、一個も共感できなかった。作中何度も自己言及されるように「メチャメチャ」なだけだと思ったし、恋愛ネタにしたスノビズム、ひたすらに鼻持ちならず、気持ち悪い。

ストーリィやドラマ、人物造形の面ではかようにまったく受け付けませんでしたが、装飾的で華麗な文章はさすがだから始末が悪いっすね。どうでもいいよこいつら…と思いながら読んでても、時折はっとさせられる。

青年の横顔に夏の最後の光が当たっていた。いや、もうすでに夏は何日も前に終わっていて、それは秋の最初の光だったのかもしれない。東京ではもうそんな風に束の間かすめ通る風のようにしか季節を思い出せないのだった。だが、どのみち東京の季節はこの一年間無意味だった。彼女は青年の体を通してしか、秋の褐色を、冬の灰色を、春のあたたかさを、夏の燃えさかる光を、見ようとはしなかったのだから。そこは高速道路に囲まれた都会の、死角のすきまに棄てられたような小さな公園だった。
(28-29p)

されど評価はD。

恋 (幻冬舎文庫)

恋 (幻冬舎文庫)