都筑道夫『都筑道夫コレクション 《青春篇》 猫の舌に釘をうて』光文社文庫

ネタバレ注意。
うだつの上がらない売文家である主人公が毒殺事件を惹き起こす表題長編、および短編集『哀愁新宿円舞曲』、その他ショートショートやエッセィ数編の構成。
表題作は、同題の束見本に記された手記という額縁プロット、「私は犯人であり、探偵であり、被害者であり…」式のギミック、オフビートな倒叙スタイルと、技巧の限りを尽くした作品ながら、そうしたトリッキィさよりも、文学や映画、音楽などのガジェットが散りばめられた、スノッブな一人称の語り口が、最初はキザで鼻持ちならないながらも、だんだんとクセになってくる感じ、併せて戦後東京の風物描写の感興と、それがメインの恋愛沙汰にもたらす風情といったあたりに個人的には読み応えがあって、巻題《青春篇》には偽りないなあと思いました。だいぶ特殊な青春小説ではあるけれど…。
『哀愁新宿円舞曲』に関しては、最初は戦後復興期の赤線青線連作みたいな感じで、風俗資料として興味深かったけど、その路線は維持されず、艶笑譚縛りになった感じで物足りなく感じた。エロいの好きだよねこの作家。
評価はC+。

猫の舌に釘をうて (光文社文庫)

猫の舌に釘をうて (光文社文庫)